第1章

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愛する保へ この手紙を梓から受け取って読んでるってことは、わたしがいなくなってから、自棄になってたってことだよね?  まさかと思うけど、もうこっちへこようなんてことは考えてないよね? 保と過ごせた五年間はわたしにとって素晴らしいもので、人生最後の恋が保だったことを本当に嬉しく思う。 でも、保の人生最後の恋がわたしじゃなくても許してあげる。 わたしが見られなかった世界、わたしが感じられなかった幸福を、ちゃんとわたしの代わりに味わいきってからこっちの世界に来てください。 好きな人と結婚して、その人と見る三十歳からの世界、四十歳からの世界、世界の移り変わりの面白さやそれを体験する幸せ。 それを保の口から聞ける日を、ずっと待ってる。 あと六十年はこっちの世界に来ることは禁止です。(笑) こっちの世界にきたら、保と愛しあった人に、今回はあなたが保と幸せになったんだから、次はわたしに保をちょうだいよ! と言うよ。 その人は、きっとわたしの知らない保の嫌な部分も見たはずだから、案外あっさり、どうぞ、って言うかもね。(笑) そうしたら一緒に生まれ変わって、もう一度隣を歩いてくれる? でもその人に、「だめよ保は渡さない」って言われたら、その時は保が選ぶのかもよ? とにかくこれだけはわたしからのお願いです。 わたしの知らない年齢をできるかぎり生き抜いてから、保はこっちの世界にきてください。 待ってるから。ずっと待ってるから。                                  椎菜   
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