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そして椎菜の寿命、もって半年だと言われたちょうどその半年目の寒い朝、窓を開けたらダイヤモンドダストが散っていた。
病室の一番奥にある椎菜のいる集中治療室からは、到底拝めない。
僕は決断した。
どうしても椎菜に、間近であの何百年かに一回、この街に降ると言われる伝説のダイヤモンドダストを見せてあげたいと思ったのだ。
早朝、僕はまだ寝静まる病院の集中治療室から、椎菜を背負って盗み出し、あらかじめ決めていたポイントに彼女をバイクで連れて行った。
低い山から二人で見たダイヤモンドダストの舞う光景は、信じられないまばゆさだった。
この世にいくつも存在する美しい現象を、二人で目にするのはきっとこれが最後だ。
隣に、今は確かにいる椎菜を、僕は失うことが怖くて怖くて叫びだしたい気持ちを、歯をくいしばって必死に耐えた。
帰り道、片側一車線の狭い山道で、僕はバイクでガードレールをぶち破り、その向こうの崖に車体ごと飛び出そうとした。
こうすれば、僕はずっと椎菜と一緒にいられるんじゃないか、と。
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