第1章

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 だけど、もうほとんど虫の息で、僕の背中に、ゆるく紐で括りつけてあった椎菜が、死にかけている病人とは思えない力の強さで僕の腹を両手で引き戻した。 駄目だよ、保、生きて! とあらんかぎりの声で叫んでいるようだった。 その瞬間、僕の心はクリアに、強く、“生きたい”と願った。 急ブレーキをかけ、ガードレールの数ミリ手前でバイクは止まった。 だけど、勢いがついていたことと、椎菜を気にしてバランスを崩したことで、僕のバイクは倒れた。 椎菜と僕を結んだ紐がなぜか解け、車体から道路に放り出された彼女を助け起こす。  この時が、椎菜の今わの際だということが、はっきりと彼女を抱く僕の腕に伝わって来た。   何か言いたげに口を動かす椎菜の口元に、僕は耳を近づけた。 「ずっとまってるから……」  それだけを聞き取ると、椎菜から離れて彼女の顔を凝視する。 まだ、ふるえるように唇は動いていた。 「ゆっくり、きて」  たぶん、彼女はそう囁いた。 それから椎菜は満足そうに、ゆるゆると瞳を閉じた。
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