第1章

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人はいつか死ぬ。 平均寿命のずっとずっと手前で命を落とす人が、この世にはいくらでもいると、そんな簡単なことにどうして気づかなかったのだろう。 生きるよ、椎菜。 君が言うように三十や四十や八十になった世界を僕はこの目で見よう。 今はとても考えられないけれど、その時僕の隣には違う女性がいるかもしれない。 その人には、僕は同じ間違いをしないと誓うよ。 未来に出会うかもしれないその人だけじゃない。 今いる僕の大事な親や友だち、当たり前のように僕のそばで笑うやつらも、その寿命は明日に迫っているのかもしれない。 そしてそれはもちろん僕自身にもあてはまることなんだ。 後悔しないように、誰に対してでも、伝えるべき温かい感情をため込むのはやめよう。  どんなに照れくさくても、母の日には、花屋の軒先のバケツの中に大量に入っているカーネーション一本をラッピングした五百円のそれを、母親に持って帰ろう。
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