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「ずっと待ってるから」
椎菜の最後の言葉が今も耳に残る。
「わかってるよ、椎菜。すぐ行くからな」
僕は巻いてある手首の包帯を解きながら、なにかもう一度切りつけるものはないかと病室の中を見回す。
自殺しようとした人間の近くに刃物なんかが置いてあるわけはない。
どうするかなと思案したところで、僕の目はサイドテーブルの上に置いてあるマグカップの上でとまった。
あれを割れば、先が尖るだろうか……。
◇◇◇◇◇
僕と椎菜は高校の同級生だった。
高校一年の時からつき合い始め、今年で五年目を迎える、はずだった。
「ねえ、保(たもつ)この街にダイヤモンドダストの伝説があるんだって。知ってた?」
つき合って間もないまだ高校生だった頃、前を歩いていた椎菜が身体ごと振りかえって、長い髪を揺らし、笑った。
「んー?」
僕は確か、友だちからゲームの攻略方法を聞いたばっかりで、忘れないうちにと、制服の上からスクールバッグをリュックみたいにして背負い、両手でゲーム機を操っていた。
「ねえ保、聞いてるの?」
「聞いてるよー」
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