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「ずっと待ってるから」
「ああ、わかってるよ、椎菜」
病室で僕は、静かに巻かれた包帯を解いていく。
ぐるぐるぐるぐるとリズミカルに包帯を解くと、やがてカミソリで深く傷つけたくっきり残る赤い線と、それを縫った跡が現れた。
待ってろ椎菜。今行くぞ。
ガシャン、と乾いたガラスの破壊音が病室に響いた。
「保っ!!」
病室のドアがいつの間にか開けられて、入って来ようとしたのは、僕と椎菜と同じ高校で、その頃からの彼女の一番の親友の梓(あずさ)だった。
「何してるのっ?」
梓はバッグを斜めがけしていて、それとは別に、僕へのみやげだと思(おぼ)しきこの街で評判のケーキ屋のロゴが入った紙袋を持っていたらしい。
落ちたのはその紙袋のほうだ。
ガラスの容器に入ったプリンが有名だから、たぶん買ってきたのはそれで、落とした衝撃で割れたんだろう。
あと数センチでマグカップ、というところまで手を伸ばしかけていた僕は、のろのろともとの体勢に戻る。
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