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「何にもしてねえよ」
見えすいた嘘はモロバレだ。
僕の手首の包帯は全部解かれ、まだ血の匂いさえしそうなほど生々しい傷口が、梓の前にさらされている。
梓が僕のほうに速足で歩いて来る靴音がし、それが止まったと思ったら、いきなり頬にすごい衝撃と痛みが走った。
頬を張られたんだと後から気づいた。
「こんなことして、椎菜が喜ぶとでも、本気で思ってるわけじゃないよね?」
「あいつが……あいつが言ったんだ。ずっと待ってる、って」
「すぐに来て、とは言ってないでしょ? 自分に都合よく解釈して逃げないでよ! あんたにそんなことされたら椎菜のご両親だって、立つ瀬がないよ。あんたの親に顔向けができないでしょうが」
「俺が……俺がバイクの事故さえ起こさなきゃ……。椎菜の親だってそう思ってる」
しばらく梓は黙っていた。
「椎菜のパパとママが保にどれだけ感謝してるか、わかる? お葬式にも出なかった保に、それをどうやって伝えたらいいのかわからないんだよ。それなのに、またこんなことしようとしたの?」
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