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「おばあさん、おばあさん……僕はここにいるよ。ちゃんと最後まで見てるよ。そばにいるからね」
無理に作った笑顔に、おばあさんはいつもの困ったような笑みを薄く浮かべて、一生懸命に頷いた。
そして、
ありがとう。
そう色味のない唇が形作って、おばあさんは静かに息を引き取った。
「これが孤独死なお顔でしょうか」
「うん」
とても安らかな表情。
こんなおばあさんの姿を、僕はとても綺麗だと思った。
汗ばみ張り付いた白髪混じりの前髪を。
そっと直すように。
決して触れることは出来ないが、その気持ちだけでもと素振り(そぶり)だけをした。
「僕が生きていたら、すぐにでも駆けつけるのに……」
これほど素敵な時間。
死んでから過ごせるだなんて。
やり切れない気持ちと満足そうなおばあさんの顔。
なんとも言えない気持ちに言葉が見つからない。
耳を塞ぎ、この世の言葉ではない何かを発する使いが背後から鼻で笑ったように吐いた。
「貴方様、死んでませんよ? 」
くるりと玄関へ向かうことを引き止めるように僕は問うと、
「今は生死の狭間にいらっしゃるのです。御自身のことを思い出した時にはきっと……」
「ねえ、僕が思い出す日はすぐ?」
「さあ?」
深い黒の夜に溶け込む瞬間。
無表情だった口元が、少し綻びたことをちらりと盗み見た。
なるほど。
おばあさん待っていて。
すぐに思い出すからね。
そしたら必ずまた逢いに行くから。
……話しに行くから。
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