僕とおばあさん。

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「……黒ちゃん」 「こんばんは。具合はどう? おばあさん」 おばあさんが嬉しそうに目を細めたが、少し困ったように「この通りなのよ」と、潜る布団を弱々しく指さし寝たきりでいたことを伝える。 「大丈夫?」 「ええ、ええ平気」 黒ちゃん、というのはおばあさんがつけた。 大学生だったとは思う。 名前は……。 随分前に思い出せない。 何しろ死んでしまっているのだから。 「黒ちゃん、今日はどうだった?」 「今日はとてもお天気が良かったんだ。もうすぐ春になりそうだよ。街中の人達の服装が前より薄手だったから」 「そう、もうすぐ春なのね。春はとても好きな季節なの……けれど季節の変わり目だからかしら」 体調が優れないのは、とおばあさんは僕を気遣ってすぐに困ったように笑うのだ。 僕が何故この独り暮らしをしているおばあさんの家へ通っているのか。 それはこの人だけが僕の存在を認識出来たからだ。 僕が死んだ日。 もうどれくらい経ったのだろう。 今でも覚えているのは体が妙に軽く、頭の中にこれでもかと氷でも詰め込んだのではないかというくらいに、清涼感のような冴える感覚。
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