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同業者の談合現場。
恋人たちの甘い時間。
一人寂しく自分を慰める女性。
幸せそうな夕食風景の家族。
コンビニの外で楽しく会話をする部活帰りの男子生徒たち。
その中で僕はいつもそう呟いていた。
「はっきり見えますよ」
そう返してくれたのがこの人だ。
「僕のことですよ?」
「他に誰がいますか」
周りを見渡すと、もうすでに日が暮れて街頭がついている。
青白いガードレールと点滅した信号機。
忙しなく行き交う車とゴミステーション。
誰もいない。
「お名前は?」
「……忘れ、ました」
「そう」
「気がついたら幽霊になっていて僕が、怖くないですか……っ」
すると不思議な顔をした後に口元を軽く押さえ、小さく笑った。
「そんな寂しそうな顔をして、怖いわけありますか」
そんな出会いだった。
家においで。
と誘われ、無言でついて行きたどり着いた随分古い一軒家。
掃除も行き届いておらず、電気も着く部屋と着かない部屋がある。
籐で出来たチェストの上には、黒ずんだピンク色のカバーがかけられた黒電話。
薄く埃の被ったケースの中でバレリーナがくるくると踊っている置時計。
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