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僕からは見えているだけに、切なくなるほどおばあさんは僕を探し必死に声をかけていた。
ある時名前を忘れた僕に、
「黒ちゃんっ」
「え?」
「あなたのお名前、前に可愛がっていた猫ちゃんなの」
「うん」
これがね、と古ぼけたボロボロのアルバム。
もう台紙が黄ばんでいるそれを嬉しそうにめくって見せてくれた。
そんな毎日を送るまたある日。
「こんばんは、どうしたのおばあさん……具合が悪いの?」
「少し……でも黒ちゃんが来てくれたらすぐに元気になるわ」
「うん、早く良くなってね」
月日が経つにつれておばあさんはどんどん布団から出る回数が減って、決まって大丈夫としか言わなくなった。
ご飯もあまり食べれず、時にはトイレにこもり吐いている。
「黒ちゃん、今日はどうだった?」
具合が悪くなってからおばあさんは毎日のように外の様子を聞きたがった。
そして僕が話すと嬉しそうに眠りにつくのだ。
さて、と立ち上がった瞬間だった。
ぼんやり朱色の灯りが玄関のすりガラスに揺らめいている。
僕は恐る恐るそこを見つめた。
まさか泥棒だろうか。
すり抜け様子を伺おうとすると、灯りの方からすり抜けてきた。
「うそ、だろ……あなた一体っ」
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