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「だれか、だれか……だれか、ねぇ」
がくり、と項垂れるように。
真っ黒なアスファルトが、僕を吸い込むように。
ここだけの重力が何倍もあるかのように。
力が抜けた僕の背後から使いが声をかける。
「もうお止め下さい」
「僕の、せいだ……」
何も知らずにのうのうと。
だから僕のような者が誰からも見えない。
聞こえない。
気付かれることがなかったのではないか。
ああ、こんな僕でも涙は流せる。
酷く滑稽な話しだ。
いっそう感情も失ってしまえれば人恋しい気持ちも寂しさも……誰かに縋ろうなんて思わなかっただろう。
どん底だなんてよく言ったものだ。
底なんてどこにあるのだろう。
「確かに貴方様のせいで御婦人は早めにお迎えに行かねばならなくなりました」
こんなにも不甲斐ない気持ちは、
生きていた時にも感じたことはない。
「まあ、元々あの御婦人は孤独に誰にも知られずお亡くなりになる御予定」
「……」
「しかし貴方様が看取ることで、果たして孤独に亡くなっていくのでしょうか」
そうだ……。
使いの言葉に僕は急いでおばあさんの眠る部屋へすり抜けると、目を開けることすら困難そうな弱々しいおばあさんが、口元だけ僕の名前を形作っていた。
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