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 俺は最近、妙な夢を見る。  視界ゼロの暗闇の中、どこからともなく女の人の声だけが聞こえるのだ。  『待っています。ずっと待っていますから』……と。どこへ逃げても、耳を塞いでも、その声はいつまでも俺の耳にこびりついて離れない。  夢は人の記憶を元に生み出されていると聞くが、俺は過去現在と女性を待たせるような覚えなど一度足りとも無い。何故ならこの19年間、交際経験が全く無かったからだ。  もちろん遠くに住んでいる小学生のいとこやおばさんの声にも思い当たらず。あの声はもっと、こう、透き通っていてどこか高貴な感じがした。  そんな声の人に知り合いなど無い。恐らくは無意識に覚えているテレビの有名人かアニメのキャラの声だと思うがまるで検討がつかない。  それなのにどうして……毎晩のようにしつこく訴えてくるんだ。姿くらい現せよ。アンタのせいで毎晩うなされて、ロクに睡眠が取れず受験勉強に集中できないじゃないか。  一年浪人した分、今年は何が何でも受からなきゃならないってのに。今が一番大事な最後の追い込み時だってのに……。頼むからもうやめてくれ。勘弁してくれよ。  そんな俺の切実な願いなどお構いなしに、夢の中で女は澄んだ声で俺に訴え続けた。 〈--待っています……ずっと、待っていますから--〉
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