ヘドロ

2/2
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 緑色をしたヨーグルト状の粘りけが、その家を埋め尽くしたのは何年前の話しだろうか。  なにも知らない盗人がその家に足を踏み入れた。おそらくその頃には中庭も家の廊下もぬめぬめとしたものにおかされていたであろう。  盗人は粘りけの中を進んで行った。梁には蜘蛛の巣が絡まり、天井にまでなにかがこびりついていた。鼻がひんまがるような臭いが家の――とりわけ浴槽付近から溢れている。盗人は異常な家の在り方に足を止めていた。ここから先に進んではならないような気分さえあった。このひどい家に主がいるはずもない。早々に家を去ろうとした盗人の耳に水滴の音が聴こえた。  盗人は危うく出し掛けた言葉を呑み込み、両手で口を塞いだ。長居をしてはならないと直感がさらに強く訴えた。  盗人は出口に向けて駆け出した。しかし滑りに足をとられて転倒してしまう。ヨーグルト状の粘りが盗人の手足に絡み付いた。立とうとしても身体が鳥もちに押さえ付けられたように動かなくなった。  ヨーグルト状のなにかが盗人の口や鼻から流れ込む。吐き出そうにも吐き出せず盗人は悶え苦しみ意識を飛ばした。 ――翌日、その家に保健所の人々がやってきた。 「こいつはひどい……よくまあ、ここまで成長したもんだ」 「班長、家の廊下にヘドロまみれの人間がいます!」 「警察と救急車を呼んでくれ」  保健所の人々の前に全身を緑色に装飾された家が佇む。  もちろん、保健所の人々が夜に起きた出来事を把握することはなかった。  また数日後、人間がヘドロまみれで見付かったが事件の謎は解明されていない。 完
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!