一章

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「だから何度言ったらわかるんだ!  空席を埋めろ、空席を!  できなきゃ地方巡業に出すぞ」 「そんな、地方巡業なんて出たらじり貧ですよ。  巴里でやるからこそやっていけるんです。  演目を変えれば客は戻ってきますから」 「じゃあ新しい看板役者(エトワール)を呼べ。  伯林に稼ぎのいい曲芸師がいるそうじゃないか」 「アルベルトならダメですよ。  前にビーティを声がデカいってだけでクビにしたでしょう。  小さな世界ですから評判がついてまわるんですよ。  いまじゃあなたは鼻持ちならない頑固オーナーです。  誰も来たがりません」 「それを何とかするのがお前の仕事だろう!」 支配人(ミステル)であるガーナムとオーナーが急ぎ足でこちらに向かってきていた。 この奥には支配人の執務室がある。 「ペルセウスが古いのだ。  いまさら神話なんて流行らん。  キャプテン・クックみたいな今どきの演目をやれ」 オーナーは苛立たしげにつばを吐いた。 「新しい演目なら二ヶ月も前から稽古中です。  そのために新入りだって手に入れたんですから」 「そう言ってあの野良猫は全然調教が進んでおらんではないか!  いつまで待たせるのだ。  とにかくあの蛇女はもう古い。  さっさと演目を切り替えて見世物小屋にでも売っちまえ。  これ以上客が減るようなことがあればお前はクビだからな!」 どちらも立派に髭を生やした年寄りだったが、オーナーが怒りを露わにして支配人のガーナムに噛みついていた。 少年はその場をやり過ごそうとしていたが、磨いていた鉄棒を床に落としてしまった。 がしゃんと耳障りな音が響く。 「誰だ!」 オーナーの声に少年はばつが悪そうに資材の影から立ち上がった。 「す、すいません」 「誰だ、こいつは?」 オーナーが眉をひそめる。 「ラファエルです。  雑用と出来そこない(デパエワール)たちの世話をやらせてます。  おい、そこで何をしている?」 支配人がつかつかと近づいてきて、杖でラファエルの頭を突いた。 「その……用具の片付けを……」 「いつまでやっているんだ!  さっさと終わらせろ!」 「はい!」 二人は声のトーンを落として執務室へと向かっていく。 ラファエルは急いで用具を片付けると、逃げるように収納庫を後にした。
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