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「だから何度言ったらわかるんだ!
空席を埋めろ、空席を!
できなきゃ地方巡業に出すぞ」
「そんな、地方巡業なんて出たらじり貧ですよ。
巴里でやるからこそやっていけるんです。
演目を変えれば客は戻ってきますから」
「じゃあ新しい看板役者(エトワール)を呼べ。
伯林に稼ぎのいい曲芸師がいるそうじゃないか」
「アルベルトならダメですよ。
前にビーティを声がデカいってだけでクビにしたでしょう。
小さな世界ですから評判がついてまわるんですよ。
いまじゃあなたは鼻持ちならない頑固オーナーです。
誰も来たがりません」
「それを何とかするのがお前の仕事だろう!」
支配人(ミステル)であるガーナムとオーナーが急ぎ足でこちらに向かってきていた。
この奥には支配人の執務室がある。
「ペルセウスが古いのだ。
いまさら神話なんて流行らん。
キャプテン・クックみたいな今どきの演目をやれ」
オーナーは苛立たしげにつばを吐いた。
「新しい演目なら二ヶ月も前から稽古中です。
そのために新入りだって手に入れたんですから」
「そう言ってあの野良猫は全然調教が進んでおらんではないか!
いつまで待たせるのだ。
とにかくあの蛇女はもう古い。
さっさと演目を切り替えて見世物小屋にでも売っちまえ。
これ以上客が減るようなことがあればお前はクビだからな!」
どちらも立派に髭を生やした年寄りだったが、オーナーが怒りを露わにして支配人のガーナムに噛みついていた。
少年はその場をやり過ごそうとしていたが、磨いていた鉄棒を床に落としてしまった。
がしゃんと耳障りな音が響く。
「誰だ!」
オーナーの声に少年はばつが悪そうに資材の影から立ち上がった。
「す、すいません」
「誰だ、こいつは?」
オーナーが眉をひそめる。
「ラファエルです。
雑用と出来そこない(デパエワール)たちの世話をやらせてます。
おい、そこで何をしている?」
支配人がつかつかと近づいてきて、杖でラファエルの頭を突いた。
「その……用具の片付けを……」
「いつまでやっているんだ!
さっさと終わらせろ!」
「はい!」
二人は声のトーンを落として執務室へと向かっていく。
ラファエルは急いで用具を片付けると、逃げるように収納庫を後にした。
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