一章

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「ただいま」 ラファエルは機材と動物たちの寝床がごっちゃになった倉庫のひとつに寝泊まりしていた。 象や馬にはちゃんとした調教師がいるので別の場所に休んでいる。 ここにいるのは担当する調教師がいないごく一部の動物と、あとは半獣人(デパエワール) たちだった。 出入りするのは鍵の管理をしている警備員と、世話係のラファエルしかいない。 ラファエルが団員の宿舎から食事を受け取って倉庫に戻ってきた頃にはすっかり夜も更けてしまっていた。 「お疲れ様。遅かったのね」 倉庫の壊れかかった扉を開けると艶のある声がラファエルを出迎えた。 入り口そばのラファエルの寝床の隣には猛獣用の檻があり、そこには先程のメドゥーサがとぐろを巻いて待っていた。 カツラは既に外していて、クセのある艶やかな黒髪が腰の辺りまでゆるやかに流れている。 怪物のようだった恐ろしい化粧を取り去って褐色の健康的な色を見せている。 やや切れ長な瞳は深い緑の輝きをたたえ、紅を引いた唇からはのぞく八重歯が妖艶な存在感をもっていた。 巴里に数多いる淑女の佇まい。ただ違うのは下半身だけだった。 スカートの下からは鱗をまとった長い胴体がはみ出していた。 半獣人(デパエワール)はここ十年ほどで現れた新しい変化だった。 急激な工業化で発生した化学物質や粉塵が原因だという偉い学者もいるが、本当の原因は誰にもわからない。 確かなのは、この現象に襲われるのは若い女性だけということのみだ。 生まれつき、もしくはあるときを境に、彼女たちは自分のなかに獣を同居させる。 「ごめん、マノンさん。  すぐに火をおこすからね」 ラファエルはストーブの準備を始めた。 マノンはほおづえをついてラファエルを眺めている。 今年二十七でもう五年ここにいるマノンは半獣人では一番の古株だった。 「今日はそれほど寒くないからあとで大丈夫よ。  先に食事を配ってしまいなさいな。  レーナがお腹を空かして死んでしまいそうよ」 半蛇半人のマノンの檻のすぐ後ろに半熊半人のエレーナの檻がある。 三匹のマレー熊とエレーナはカンカン衣装のまま、檻の中で寝っ転がっていた。
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