一章

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「むにゅぅ。もう死んじゃうにゃ」 開口一番にエレーナは言った。 エレーナはラファエルと同じ十三才だったが、天真爛漫で行動は非常に子供っぽい。 相棒のマレー熊たちとしょっちゅうじゃれ合って遊んでいる。 本来のエレーナの檻は別にあったが、彼女はいつもマレー熊と同じ檻に入り、一緒に眠ることを好んだ。 「ごめんよ。もうすぐだから」 用意してきた食事を準備しているとラファエルのお腹も刺激されてぐうとなった。 気づけばラファエルもお昼から何も口に入れていない。 「あらあら。  ラファエル、あなたが先に食べたらどう?」 「全然っ、平気だからっ。  ほら、マノンさんの分だよ」 ラファエルは冷めてしまった鴨肉入りのシチューとパンを差し出した。 「ありがとう。  自分たちで食事くらい用意できたら良いのだけど……。  檻から出られないのは不自由なものね」 「ごめんなさい」 ラファエルは謝った。 折から出してあげたいのは山々だったが、ラファエルは鍵を持っていない。 「別にラファエルが悪いわけじゃないのよ」 「ごめん」 繰り返し謝るラファエルのお腹がきゅうと情けない音を出した。 「ふふ、早く一緒に食べましょう。  みんなの元に配ってちょうだい」 「うん」 ラファエルはご飯を順番に用意する。 今夜はマレー熊たちは芋や果実で、エレーナにはマノンと同じ食事を少し多めに盛りつけた。 彼女の小さな体からは想像も出来ないほどよく食べる。 何よりも美味しそうに食べるのでラファエルもつい奮発してしまいがちになった。
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