一章

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ラファエルが水筒を差し出す。 エレーナは母親のように三匹のマレー熊の水飲みボウルにそれぞれレモネードを注いでやり、それから自分は直に水筒に口をつけた。 「うまー♪」 ぺたりと座り込んで両手で水筒をもって飲むエレーナ。 その姿は小さな子供のようだった。 マレー熊たちはあっという間に自分たちの分を飲み干すと、エレーナの持つ水筒に群がった。 水筒、エレーナの顔ともに見境なくなめ回す。 「こらっ、あんたたちはもう飲んだにゃ!  これはレーナの分にゃぁー」 エレーナが熊たちとじゃれている間に、ラファエルは次の食事を準備する。 この倉庫の中で一番大きな檻に入っているのは白鳥のマリアンヌだった。 彼女の檻だけは化粧台やクローゼットなど普通の部屋と見紛う家具が配置され、観客からのプレゼントやオーナーから貰った化粧品や洋服が所狭しと並べられている。 彼女は上等な椚(くぬぎ)で作られた止まり木に腰をかけ、蔑みの眼差しでやってきたラファエルを見下ろしていた。 手にはこのあいだ十六才の誕生日に貰ったという銀細工のオルゴールを持ち、緩やかに音楽を奏でている。 「あっ、ご、ご飯を持ってきたよ」 マリアンヌを見上げていたラファエルは慌てて俯くと、顔を赤らめてごにょごにょと言い訳するように言った。 彼女を見上げたときにスカートのめくれた部分から下着が見えてしまったのだ。 飛ぶのに影響があるのか、彼女は軽装であることが多い。 薄い生地のスカートはひらひらと彼女が動くに合わせて揺れ、太ももの奥をちらりと垣間見せる。 マリアンヌはそれを気にする様子もなく苛々した様子で舌打ちをした。 「一体いつまで待たせるのよ。  とんだ役立たずね」 「……ごめん」 ラファエルが食事をおずおずと檻の中に差し出すと、マリアンヌはふわりと上空の止まり木から地上に降り立った。 マリアンヌの背中には白鳥のような厚い翼が広がっており、細い彼女自身の体を軽々と持ち運んだ。 胸は鎖骨が大きく前にせり出して大きく見えるが、脚は逆に筋肉すらついてないかのように細い。 その羽のように白いマリアンヌの体の重さはいかほどのものなのか、ラファエルはいつも不思議に思っていた。
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