1人が本棚に入れています
本棚に追加
明かりもなく薄暗いガラクタが散乱する倉庫の一番奥に彼女の檻がある。
「ほら、ご飯だよ」
彼女は檻の隅でうずくまっている。
「クララ、こっちへ来て」
クララは憂鬱そうにラファエルに近づいた。
外套で全身を隠しているが、身長はかなり高くて百七十はある。
年は十五で本来ならばもっともおしゃれしたい年頃なのだろうに、彼女の服装は襤褸よりもひどい。
化粧もしておらず、太い眉が意志の強そうな眼の上に載っている。
口元には口輪がされていた。
ラファエルは鍵を預かっており、食事の時だけそれを外すことを許されている。
鍵を外すとき、襤褸のような衣装からはかすかに血の臭いがした。
「また叩かれたの?」
「……」
口輪を外されたクララは質問には答えずに渡された食事を黙々と片付けていく。
それは楽しむのではなく、生きるための食事にみえた。
「ケガしてるんでしょ?」
「……」
「ねえってば」
「……うるさい。
……私に構うな」
「駄目だよ、手当てしないと」
クララが言葉を無視して背中を向ける。
その拍子にフードがめくれて金色の髪に覆われた後頭部が露わになった。
ちょこんと出た耳が聞き耳を立てていて、少なくともまだ話を聞く気はあるのだとラファエルは安心する。
「こっちにきて傷を見せてよ」
「断る」
「手当をしないと僕が怒られちゃう」
「知るか」
「駄目だよ。
もし怪我が悪化したりしたら僕がクビになっちゃうんだから。
そしたら治療費も払えなくなってしまうし、僕はもっとお金が安くて仕事がキツイ工場とかで働かなければいけなくなる。
そんなのは嫌だ」
先程マリアンヌに脅迫されたことが頭のなかに残っていて、ラファエルは言った。
半獣人に何かあれば、ラファエルは確実にクビになる。
クララはしばらく考えたあと、仕方なくラファエルの前に背中を向けた。
座り込んで衣装を脱ぐ。
その一糸まとわない彼女の、
その柔らかそうな金色と黒色のまだらな毛に覆われた背中には、
鞭で叩かれて皮を剥かれた傷跡が、
生々しく鮮やかな紅色を剥き出しにしていた。
最初のコメントを投稿しよう!