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わたしはなんとなく微妙に食い違っているものを感じて、あわてて手を振った。
「そこまでじゃなくって、もっと気楽な感じでいいの……」
シャーロットは無邪気に笑った。
「だいじょうぶだいじょうぶ、分かっているよ。でも、そんなことを約束しなくってもあたしらはもうそれぐらいの関係になっていると思う。ね? そういうのは約束しなくっても気持ちがかよっていれば、なれちゃうものなんだよ」
シャーロットの指がとんと、わたしの心臓を突いた。そして、バウンドしたように持ち上がったその指がシャーロットの胸にとんと下りる。通じている――のジェスチャー。わたしはぱあっと心が明るくなるのを感じた。シャーロットも微笑んでいる。
「そうだ!」と、シャーロットは思い出したように、とつぜん顔を上げて言った。わたしに顔を向ける。
「こういうのを〝親友〟っていうんだった。あたし、普段から使ったことがないし、これまで使ったことがなかったから分からなかったけど、そうだよ、親友だ」
シャーロットは日本生まれではなかったから、いくら日本語が達者とはいえ、使いなれない言葉があったとしてもおかしくはなかった。こんなことは一度や二度ではなく、これまでにも何度かあったことだったから、わたしとしてもさして気に掛からない。
もちろんこれは日常語というやつで、わたしには当たり前に知っている言葉だ。でも、わたしはこれまで〝親友〟がいたことはなかったのだった。〝よっちゃん〟は親友といってもいいぐらいだったけれど、でも友情を確かめるその前に終わってしまった関係だった。
「わたしたち、〝親友〟なの?」
と、わたしは勢いで問いかけた。あとからこれは変な質問だって気づいて、急に気恥ずかしくなったのだけど、でも、シャーロットはやっぱり気さくに応じてくれるのだった。
「そう、親友だよ」
なんとなく彼女の親友の発音が少しだけ違うような気がした。でも、むしろそこが新鮮で、彼女らしかった。
心が幸福で満たされている。同時に、わたしのなかに妙な自信が満ちてくる。これはなんだろう、自分でもよく分からない。もしかしたらちゃんと自制したほうがいいのかもしれなかったけど、でもいまはこのシャーロットとの時間を楽しみたいという欲だけがあった。
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