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拝啓 山内慎一郎さま
あなたにきちんと手紙を書くのは初めてで、少し緊張しています。
おかしいですね。ずっと一緒に暮らしていたのに。
それとも、ずっと一緒に暮らしていたからかしら?そうかもしれません。
あなたはきっと、ひとりじゃ何も出来ないだろうから手紙を書きます。
どうせ、ろくなものを食べていないのでしょう?
きちんと食べなきゃだめよ。
あなたにも作れそうなレシピをまとめておきました。台所の棚に置いてあるので作ってみてください。
食材は駅前のスーパーでいつも買っていました。お魚だけは商店街の魚勝さんがいいわ。あなた、お刺身好きでしょう?
洗濯の仕方は分かるかしら。家電の説明書は本棚の一番下に入れてあるので、読んでみてください。説明書を読めば分かりますよ。
スーツやコートは近所の中田クリーニングさんに頼んでね。とても親切な方だし、仕事もとっても早いのよ。
あと、通帳の場所も分かっていないのでしょう?
仏壇の左の引き出しです。浪費にはくれぐれも気をつけて。あなたは大丈夫って信じてるけれど。
ひとりで暮らすのに慣れたら、自分一人で何でも出来ると思ってしまうかもしれないけれど、たまには啓介のことも頼ってあげてくださいね。息子に親孝行させてあげるのも親の役目ですよ。
もう、私には出来ないから、よろしくお願いしますね。
あとは何か不安なことはある?
私は心配でしょうがないのだけれど。
あなたをひとり残して逝かなければならないのは、とても残念なのだけれど。
でも、しょうがないわね。
もう、年だもの。
先に謝っておくわ。
あなたをひとり残してしまってごめんなさい。
ふふ、書いてから気づいたけれど、全然先じゃないわね。
私が死んでどれくらい?
分かりやすいところに入れておくつもりだけれど、すぐに分かったかしら?
一年とか経ってたら嫌よ。
……見つけてくれなかったらどうしよう。少し不安だわ。思いっきり見つけやすいところ、探します。
ちょっと長くなってしまったわ。
もっと話したいこともあるのだけれど、これくらいにしておきます。
だってまた会えるでしょう?
その時は私が死んだあとのこと、たくさん教えてくださいね。
私、ずっと幸せだったわ。
あなたと結婚して、啓介が生まれて、これまで生きてこれたこと。
あなたといられたこと。
本当にありがとう。
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