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第2章
目の前が雲って、妻の最期の言葉が見えなかった。
彼女の手紙を見つけてから、彼女の言葉に誘われるままに台所へ行ったり、本棚を見たり、仏壇の引き出しを開けた。
こんなにも私は心配されていたのか、と少し悲しくなった。ずっと心配をかけていたのか。
彼女の手紙は、彼女の知人の連絡先が書いてあるノートの、一番最初のページに挟まっていた。
彼女の葬式の案内を出すためにノートを開いたら挟まっていたのだ。
彼女の字で『あなたへ』と書いてある白い無地の封筒が。
彼女から手紙をもらうのは初めてで、何が書いてあるのかと思うと開けるのが怖かった。
忙しく、家庭を顧みなかった私への恨み節だろうか。それとも、何か秘密でもあったのだろうか。
それとも、それとも……。
いくら考えても分からなかった。
彼女のことを何も知らないんだと思って情けなくなった。
だが、これが彼女の最初で最後の手紙であることは変わらない。何が書いてあっても受けとめなくてはいけないと思って封を切った。
そこには……、そこには、愛があった。溢れんばかりの彼女の愛が。
本当に幸せだったのか?
もう、尋ねることも出来ない。
こんな私でも、一緒にいて楽しかったのか?
もう、彼女の言葉は返ってこない。
こんな簡単なことに、彼女がいなくなるまで、気づけないなんて。
彼女の返事が聞ける頃に、ただ、言葉にすれば良かったのに。
今さらだって分かっている。
今さら、私の中の彼女の大きさに気づくなんて。
「どうしようもないやつだな、私は。」
小さく呟いた言葉と同時に、彼女の文字がにじんだ。
せめて、彼女の希望に答えられるように、彼女の居ない残りの人生を楽しまなければ。
出来るだけ長く。
彼女にたくさんの土産話ができるように。
だから、それまで待っていてほしい。
彼女の最期の言葉はこうだった。
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