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扉は私の緊張をよそに、あっさりと開かれた。飛び込んでくる、天井の低い、いかにも窮屈そうな空間。私のなかに息苦しさのようなものが迫って、思わず喉の奥で「ぐ」と唸ってしまったけど、それだけで済んでくれた。中に踏み込むと、いつも通り落ち着いた気持ちを取り返せた。
「おっとっと、ダメですよ。自由に動いてもらっても困ります。ここには、大きな穴が空いていますからねえ」
透ヶ川刑事は、中央のくりぬかれた穴に向かって挑むように立ちながら、私に言った。
「そんなこと、分かっていますから」
私も立ち止まって穴から階下の模様を眺める。思ったよりも穴は大きくて、階下から見上げたときよりもずっと高さがあるのだと分かった。
私は穴を覗いているうちに、ぺたりと膝をついてしまう。呑まれそうに感じたのだ。すぐにでも穴から目を離したいと思ったところで、なぜかそれができない。
いま、真下に人型の線が描かれたフェルトが敷かれたままになっている。ちょうど転落してうつぶせになったという具合だ。
「こうしてみると、誰でも被害者の鳴海さんは一度、そこから転落したのかもしれないと事故説なんかを考えるかもしれませんでしょうが、それはまずあり得ませんから。最初にそのことは言っておくといたします」
透ヶ川刑事は私とは反対側の位置について言った。
「どうしてそう断言できるのです?」
「患部の具合からです」
彼はほぼ即答という具合に、早口で返してきた。
私はなんとなく二の句が継げず、ただ彼の顔を見つめるしかない。
「転落したことによる骨折と、鈍器で殴られたことによる陥没骨折とでは、わけがちがいます。鳴海さんはやっぱり鈍器で殺されたんですよ」
「……でも、その鈍器というやつは見つかっていないんですよね」
「ええ、それは先にお伝えしましたとおりです。でもねえ、見つかっていないどうのというのは、あんまり関係ないことですよ。こういうのは患部という証拠があれば、どうにかなるものなんです。それに、これは鑑識と司法解剖に立ち合った先生からお墨付きをいただいていることですから、もう間違いないことなんです」
「…………」
何も言うことはない。
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