3章(途中)

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 というより、こんな短い時間で答えが出せたなら苦労はしないだろう。でも、透ヶ川刑事はこれまでに流れた時間さえも考慮して私にそう言っているのだ。少しぐらい私の考えを引き出してやらなければ、気が済まないってぐらいに思っているのかもしれない。     「そうおっしゃらずに。どのようなことでもかまいませんから、花枝さんから意見を言っていただければありがたいのですが」      なんだか、目にいやな気配があった。      私は心を閉ざし、首を振った。ここで彼に従ったら、なんだかいろいろ負けのような気がする。そう思えるのは、やっぱり彼に対し、気を許せていないからだろう。      彼はまだ私を見ていた。だから、もう一度首を振った。これ以上ねばるつもりはなかったようで、彼はそうですか……、と言って引き取った。     「でしたら、わたし個人の見解のみを展開するとしましょう。……注目すべきはやっぱり、ロープでしょう」      と、彼は私の顔色伺いながら言い、くりぬかれた縁の真上に取り付けられたステンレスリングを指差す。私は、そちらに目をやった。     「なぜ、鳴海さんを空中に吊り上げなければいけなかったのか、これが一番の問題なのです。わたしたちも随分と苦しめられてきましたが、たぶん、答えはそんなに難しくはないことなんだと思います。これというのも、所詮人が考えることですから、基本的に単純に決まっているんです」      その答えを求めるように、透ヶ川刑事は再び私をじっと見た。私は試されているような気がした。      そのまま、睨み合いのような間がつづく。      透ヶ川刑事の口尻がゆっくりと吊り上がる。     「……と、その答えを導くその前に、まず犯行過程を明らかにしたいと思うのです。どうしてそんな回り道をしなければいけないんだなんて腹を立てるかもしれませんね。でも、そうしたほうが分かりやすいんですよ。つまりですね、犯人はちゃんとした理由があって、鳴海をロープで吊り下げたんです」      私の心臓がどっどっと胸を叩くように打ち始めた。      この時点で、私の母は無実であるとでも言わんばかりの勢いがあるような気がして、私としても気が気でなかったのだ。それにしてもやけにもったいぶったように話すのは、これはわざとなんだろうか。      私は深呼吸をして、普段の自分を意識することにした。  
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