3章(途中)

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「けっこうですよ。刑事さんが考えているとおりに、犯行過程から話して下さい」      と、私はつとめて穏やかに彼にそう投げ、任せることにした。今の調子だと、変に注文をつけた途端、自分を陥れるように仕掛けてくるように思えて仕方がない。     「では、まず最初に被害者となった鳴海さんはどこで殺されたのか、そこから始めるとしましょうか」      透ヶ川刑事はかがんで、穴を覆っていた木蓋をゆっくりとずらしていった。また私の目に露わになる、階下の模様。やっぱり私に恐怖を駆り立てるだけの高さがあって、一瞬めまいのような感覚を得た。     「倒れたりすると危険ですので、とりあえず膝をついて下さってけっこうですよ。いえ、わたしと同じように屈んで下さればありがたいです」      と、透ヶ川刑事は私を気遣うように言って、身を伏せるようジェスチャーを伝えてきた。なんとなく言いなりになることに気が引けてはいたが、ここは逆らわず自分のためにもその通りにした。      彼と並んで、階下のフェルトを眺める。     「フェルトには一度倒れた跡があり、さらには血痕があったわけです。解剖の結果、死因は頭部の挫傷だと分かったわけですから、通常の見方でいけば、フェルトの上で鳴海さんは殺されたとなってきます。となると、あの二階の天井に取り付けられたリングを使わない手はないでしょう。これらの条件からして、後はもうお分かりですね? そうです、ロープに鈍器を巻き付けたものをあらかじめ吊り上げておいて、一気に落とすやり口が採用されたってことなんです」      一階は高さがある分、鈍器を加速させることができる。あとは命中さえしっかりすれば 自然と殺人は完成してくれる。このことに私に異存はなかった。      私はなんとなくその高さのほどを確認する。思った以上に奥行きがあって、すぐに首が痛くなってくるぐらいだった。首筋に手を当てたところで、透ヶ川刑事が問うてくる。     「どうです? これぐらいの高さだったら、鈍器がそれほど大きなものでなくとも致命傷を負わせることが可能であるとは思えませんか?」      ゆっくりうなずいた。     「……そうかもしれません」     「ですが、残念なことにこの見方は成立しないんですよ」      と、彼は言って、肩をそびやかした。      どうして? なんて、私は都合のいいことなどは問わない。彼は遠慮なしにつづけた。  
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