3章(途中)

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   私はそれとなくながらも、しばらくその模様をイメージしていた。     「……それで、リングがその向こうにもあったというのでしょうか?」     「それが、見つかったんですよ。それも、最近の話です。ただ、それは第三者があとから取り付けられたものじゃありません。あらかじめ建築の予備装置として取り付けられたものなんだそうです。ですが、新たな発見であることには変わりはないわけでして……、まあ、いま当方で注目されているものなんですよ」      私ははっとして彼を見やった。     「いま最近とおっしゃったのです? でしたら、この屋敷はまだ調べるところがあるわけで……取り壊しは嘘だってことになるじゃないですか?」      ええそうです、と彼は悪びれた風もなく応じる。     「あなたの言うとおり、取り壊しにつきましては、取り下げにまでにはなっていませんよ。ただ、この件を受けてさらに延期されている状態にあるというだけのことであって……」      とりあえず、私が騙されたのは事実だ。彼によって誘導されるようにこんな所まで来てしまった。自然と怒りがわいてくるが、私はそれが表に現れないよう、努力した。     「我慢しなくたっていいんですよ」      と、彼はなおも私の感情を掻き回すように言う。でも、一度落ち着けた私の気持ちは、自分が思っているよりもずっと理性的だった。私はいたって静かに彼を見ていた。     「結果的にはあなたに対して、嘘を言ったのはほんとうでしょうからねえ。でも、言い訳をいたしますと、こういうことをしてまで誘わないと、あなたの足は動いてくれないじゃないですか。わたしとしては苦肉の策としてこれをやったつもりです。安易に騙すつもりでやったわけじゃないんですよ」      こういうことは一度きりなのだ。だから、今後はないのだって思えば、そんなことは執拗に攻めるようなことでもないはずだった。     「事情はわかりましたから。でも、二度とこのようなことなんてしてほしくありません。ですから、次はないと思ってください」     「分かりました。そのことは、重々肝に銘じておくとします」      と、彼は正直に応じて、私に頭を下げた。      やけに素直な反応だ。これは、終始一貫している。そこまでして私と付き合っていかなければいけない彼には、別の狙いが隠されているような気がしてならない。
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