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「まあな。時間をおいて少しずつ……といった具合だった。でも、最初にその事が伝えられた時には、みんな信じていたから、やがて自分もという風に受け入れていったよ。あれだと、疑う余地もなかったといったところじゃないか」
まるで私の落ち着きに倣うように、口調が穏やかになっていった。しばらく経って吐き出された彼の声は、最初の落ち着いた調子と同じものだった。
「このことについて、あんたはどう思う?」
長らく考えつづけてきたことなのだろうと思った。そして、おそらく彼の中でもまだはっきりとした答えが得られていないのではないか。
「イメージ一新というのは、ちょっとしっくりこないです」
と、私ははっきりと述べた。
「だったら、他になにか理由があったりするんだろうか?」
妙にすがってくるような、切実な問いだった。
「事件のことが絡んでいるのでしたら、答えはそこにあるはずです。もしかしたら、笹森さんって、辞めさせた人のなかに犯人がいるかもしれないって疑っていたりしません?」
「犯人? なぜ、そんなことを言うのだ」
「私の母が含まれているからです」
「君の? そういえば、君の名前をまだ聞いていなかったな。いまさらだが、お尋ねしてもよろしいだろうか?」
「はなえです。北山花枝です」
またもや無言が入る。
次に聞こえてきたのは震えた声だった。
「北山はなえ……って、あの、北山瑞枝の娘か?」
「はい、そうです」
私は淡々と回答した。別に隠すようなことでもなかった。相手は長いあいだ沈黙していた。たぶん、絶句していたんだと思う。
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