3章(途中)

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 くりぬかれた天井のその箇所だけが吹き抜けのような構造になっているから、通常よりも天井が高く感じているのかもしれなかったけど、それを差し引いても一階の高さは通常よりも高めに設定されているような気がした。     「それは、単純に職人さんが作業しやすいようにするためなんですね。じつは一階の壁際にはたくさんの漆桶が積み上げられた塗師蔵になっていたんです。ステンレスリングはそうした作品を固定するための金具だったんですねえ」      これまた私の予想と少しちがっていた。まさか、ロープで作品を固定していただなんて。はっきり言って、工房だった時代と作り替えられた今の模様とではかなり様相が異なるといっていいのかもしれなかった。      透ヶ川刑事が私の顔を見て、つづけに掛かる。     「あと、二階の体積を小さくするためでもあるとみていいでしょうね。乾燥室は体積が広いと管理が大変になってきますから、それこそ屋根裏部屋ぐらいの体積に縮めておく必要があるんです」     「…………」      私は天井を眺めていた。ステアリングが取り付けられた周囲が破れ、穴が空いてしまっている状況にある。これでは無塵室の環境なんて作れるはずもなかった。どれほど空調を稼働させたところで、部屋が隔離されていなければまるで意味がない。     「二階にまで行きましょうか?」      と、透ヶ川刑事が二階を示して私を誘ってくる。私自身、そちらに興味が引かれていていたから、とくに反発の気持ちはなかった。小さくうなずいた。      一旦、正門から外に出る。外階段に回り込もうとしたところで、透ヶ川刑事が正門前で立ち止まっていることに気付く。手には扉を封鎖する横木が握られている。     「これには瑞枝さんの指紋が残されていました。そして、残された足跡からしても証明されていますとおり、あなたのお母さんは中に立ち入ったのです」      鑑識によってあぶりだされた、母の確かな素行。      そう、私の母は事件当日、この元工房の扉を開放し、堂々と中に立ち入っては、何分か滞在した後に、横木を元に戻して扉を封鎖した上で出ていったことになっているのだった。      母本人は、この事実を認めている。でも、警察から突きつけられた数々の疑惑をうんうんと言われるがままに認めるだけで、まるで証言の中身が乏しかった。そのうち食い違いが生じて、上層部も検察も慎重になった。
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