3章(途中)

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そしてその後、彼らの読みが正しかったように、まったく進展が見られなくなった。      結局、決定的な証拠が見つからなかったことから、それらは有効な証言として採用されず、今日に至ってしまっている。      でも、警察は最重要参考人としての位置づけをいまだに取り下げていない。その母が病気になったのは、そうした重圧を受け続けたストレスによるものだろうか。多くの人はそうだと指摘しているが、私は必ずしもこれには同意的ではなかった。     「……あなたに残っています当時の記憶は、まだまだはっきりとしていらっしゃいます?」      と、透ヶ川刑事がまだ横木を抱え持ったままに、私に問う。     「なんのことですか?」      立ち姿勢を少しだけ組み替えて私は問う。     「失礼。当日の瑞枝さんの様子ですよ。見かけられたんですよね? まだ当時はあなたも幼かったからあれでしょうが、でもだからこそ必死になって探していたってこともあったと思うんです。まず母親の様子を忘れるはずがありません」      どうも彼は私が見てきた、当時の母の情景について詳しく知りたいようだ。     「私が見たのは、人が集まってから以後のことです」      甦る、当日の衝撃。でも、焦点はその後のことにこそ、向けなければいけなかった。      鳴海の死体を目の当たりにしてから以後、私はショックを和らげようとあちらこちらふらふらと歩いていた。しばらくしてから母の姿を人混みの中に見つけた。首を巡らせながらいまだ開いたままの二枚扉の向こうを、睨み付けるように見ていた。そして、誰も見ていないことをいいことに、こっそりと屋敷のほうに戻っていったのだった。      私は当時、母が出ていった方角を目で追った。      そちらは広い更地となっていて、いまは基礎の影を残したままに荒れた土地となっている。     「そちらが瑞枝さんが出ていった方角なんですか?」      と、いつの間にか横木で扉を封鎖し終えた透ヶ川刑事が、私の視線の先に入ってきた。      ぴたりと足を止め、私に身体を向ける。     「そっちはたしか、従業員室のなかでも財務管理室があったほうですねえ?」
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