チェンジ!

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_____ ____ デ・ジャ・ヴ? こんな光景を、そう遠くない昔に見たような? 夕方、お使いを済ませて戻った幸が、秘書室の ドアを開けると、そこは戦場と化していた。 正確には、狩った獲物を引き連れ、凱旋の パレードに向かう戦士達の控室に。 興味がなかったために、幸は全く気付いて いなかったけれど、今日はホワイトデー。 そのことを知ったのは、今朝の朝礼の時だ。 先輩方の服装に、やけに気合が見受けられ、 不思議に思い、聞いてみた。 『ばかね、幸。今日はホワイトデーじゃない』 先輩の一人にそう言われるまで、ホワイトデー だとは、全く気付いていなかった。 今年の自分には、関係あるイベントではない。 けれど、きれいさっぱり忘れているなんて、 女性としてどうなのか? そう思うと、なんとなく情けない。 それにしても、先月に続き、今日も別人のように 化けた、先輩方のテクニックには恐れ入る。 みんな美人なのだから、ほどほどで よさそうなものなのに。 「只今戻りました」 「幸、お帰り。打ち合わせ通り、後は任せて いいのね?」 「はい、いいですよ。私は予定無いですし」 そう、予定なんか無い。 『ずっと、ここで待……』 頭の片隅に再生された低い声を、急いで停止する。 「じゃあ、私達は行くわ。 幸、悪いけれどよろしく頼むわね」 「はい、お疲れさまでした」 賑やかに先輩方が部屋を出て行き、 幸は一人、部屋に残された。 「さあ。いつでも帰れるように、片付けを 済ましちゃおう」 定時が過ぎているのに、幸がこうして 残っているのは、午後から会合に出かけている 社長の持ち帰る資料を、受け取らなければ ならないからだ。 これは、以前から決まっていた事。 日報を書き、使ったファイルの整理が 終わった頃、社長が帰社した。 資料を一時保管用の鍵付きのキャビネットに 入れて、終了だ。 「よし、終わり」 そうだ、駅前でケーキでも買って帰ろう。 バレンタインのチョコは、加納に 取られたから。 今度こそ、自分にご褒美をあげよう。 時計は既に、七時を過ぎている。 外はすっかり日が落ちて、隣のビルの 窓明かりが点々と闇に浮かぶ。 幸の目に、街灯の明かりが照らす歩道を 行く人達が、傘をさしているのが見えた。
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