オカンとボクの二人三脚

13/14
前へ
/14ページ
次へ
 やっぱり近野さんの助言が正しいのや。  沢山の目が、僕らの芸を「おもろない」と言うてる。  ハバネロクラッツ惨敗や。  ……その中で、突然でっかい笑い声が響いた。  大袈裟なまでに手を叩いて、そいつは笑ろうとる。  オカンや。  周りの客はオカンの笑いを遠巻きに見ていた。 しかし僕らのネタが進むにつれて、笑い声が感染するかのように、オカンはスタジオ中を巻き込んだ。 「僕の方が、ええモン持ってます」 「だから下ネタやめろ言うたやろが!」  タッケーが僕をどつくたびに、ドッと笑いに包まれる。  気付けば、スタッフを含む全員が僕らを見て大声で笑うていた。 「もうええわ! ありがとうございましたー!」  タッケーが締めの言葉を言う頃には、お客さんはほんまの笑顔で僕らを見てくれていた。  長く鳴り続ける拍手は、僕らを認めてくれた証に思えた。  裏に回ると、エンキンコロンブスのお二人が既に待機していた。 「ゲラ(笑い上戸)のおばはんに助けられたな」  そう言う遠野さんに、言わんでええのにタッケーは「あれ、すぐるのオカンなんです」と白状した。 「なんや身内のサクラかい。そらズルいわぁ。 ワシらにも、今度貸してぇや」  ジョークを返す遠野さんの後ろで、近野さんはジロリと僕を睨む。  あかんと言われたネタをやった事。身内のサクラに助けられた事。僕の罪悪感が、ムクムクと起きそうになる。  だけど、僕は後悔していない。 「たくさん勉強さしてもらいました! ありがとうございました!」  間違ってない。大丈夫や。  だっていつもと同じ笑顔がそこにあった。  オカンの笑顔が、そこにいた。  僕と近野さんの空気に、タッケーからゴクリと唾を飲む音がする。  今から人でも()るんかと思うほどの迫力の近野さんが、一瞬ニヤッと笑い、すれ違いざまにボツリと言うた。 「……ええおかあちゃんやな」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加