17人が本棚に入れています
本棚に追加
「『いちねん さんくみ にしかわ すぐる
ぼくのおかあちゃん
ぼくのおかあちゃんは、めっちゃあかるいです。
トイレの電気のしたの、おとうちゃんのツルツルあたまより、あかるいです。
ぼくが、しんどいちゃうんかなあと、思うときも、めっちゃあかるいです。
わらうと、もっとあかるいです。
ぼくは、おかあちゃんに、ずっとわろうていてほしいなあておもいます。』」
授業参観でぼくが読み終わった瞬間に、爆発音のような拍手が教室全体に鳴り響いた。
クラスメイトの竹田くんや美代子ちゃん達が驚いて振り向くと、拍手をしているのはぼくのお母ちゃん一人だけやった。
「いややわっ! すぐる!
おかあちゃんの事、そないな風に思うてくれてたん!? おかあちゃん嬉し過ぎて泣きそうやわ!
みなさん! 聞きました!?
ウチのすぐる、ええ子でしょう!!
天使みたいな子でしょう! もうここまで来るとほんまの天使ですわ!」
いつの間にか教室の真ん中まで進み出ていたおかあちゃんは、いつまでもぼくに称賛の拍手を贈った。
周囲の温度差など、何も気にせずに。
「ーー思えば、あの時からやなぁ……」
「何が?」
小さいボロアパートのこの一室が、僕、西川 優のすみかだ。
風呂もない激安アパートに、うっすい布団をしいて僕は一服しながら隣の彼女と同様、裸で寝そべっていた。
まあ、つまりはコトの後と言う事です。
僕の顔の横には、丸めたティッシュと灰皿と、今日のライブのポスターがしわくちゃになって転がっている。
ライブ言うても、カッコいい歌を歌うバンドなんかやない。お笑いのライブや。
小学生のころからのツレの竹田くんと、「ハバネロクラッツ」というコンビを組んでいる。
劇場では定期的に見に来るファンもぼちぼち着いて、メディアに出るまであともう少しっちゅう感じだ。
ちなみに隣の彼女も、今日のライブでお持ち帰りをしたファンの子だ。
「ねぇ。優はいつもファンのお持ち帰りしてんの?
『思えばあの時からやなぁ』って、初めてお持ち帰りした日の事言うてんの?」
少し崩れた化粧で隣の彼女は意地悪く笑う。
その笑顔を見ながら「んな訳ないやろ? ボクのハジメテは君や」と鼻先にチュッとした。
可愛い子や思うたけど、コトが終わって冷静に見ればそうでもないな。
しかしジェントルメンな僕はそんな事は口に出さない。
最初のコメントを投稿しよう!