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「ねえ、毎回、ハバネロクラッツのライブの時、ドギツイおばはん居てるの知ってる?」
彼女の言葉にどきっとした。
「え、え? そうなん?
舞台からじゃ、客席て、その、よう見えんから」
冷や汗がだらだらと流れはじめ、タバコを咥えているのを忘れて2本目に火をつけようとした。
「ハバクラの追っかけの間では『ヌシ』て言われてるのも知らん?」
明るい話題のハズなのに、どんな話よりホラーに聞こえる。どんな法則か知らんけど、お持ち帰りした女がこの話を始めると遠くから足音が聞こえ始める。
そう。
それは今のような。
「……何? なんか、どすんどすん言うてない?
地震!? 揺れてるんやけど!!」
次第に近づいてくる地響きに彼女が怯えて、豊満なバストを僕にくっつけてしがみついた所で、アパートのドアがおもむろに開いた。
それは何かを破壊した様な音で、ドアが一瞬変形した。
「……あらやだっ! お取りこみ中やったの!!
そんなん時に鍵もかけんと無用心やで!?
避妊も鍵もちゃんとしとき!」
勝手に入ってゴメンナサイ、の一言も言わんと、オカンは部屋に入り込んで片隅の洗濯物を畳み始めた。
彼女はいきなり僕の部屋に『ヌシ』が来たから驚きすぎて付けまつげが片方取れた。
「す、優の、お母さん?」
その声にピクッと耳を動かすと、オカンは畳に手をついて上手いこと体をターンさせる。
「どうもこんにちわぁ。優の母ですぅ。
あんた、ハバネロクラッツのフアンの方やろか?
これからもハバネロクラッツ、応援よろしくたのみますぅ。」
ご丁寧に三つ指までついて、ビビるほど気持ち悪い笑顔でオカンは彼女に愛想を振りまいた。
まともな人間やったら、この彼女のように慌てて服をつかんで逃げ出すレベルの顔や。
ほぼ半裸で逃げ出す彼女に、オカンはチッと舌打ちをした。
「最近の子ぉは礼儀ちゅうもんがなっとらん。
『お母様ですか? いつもお世話になってますぅ』位の言えちゅうねん」
「それを言うなら勝手に部屋に入るオカンもや。礼儀っちゅうもんが無いんか。毎回毎回、同じタイミングでびっくりするわ」
「GPSて便利やな」
「使用方法が犯罪や」
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