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「そんなん言うたらな、オマエのいい所何もないで!」
「あるある。ボクな、めっちゃピュアな下半身やねん」
「もうええわっ! ありがとうございましたー!」
マイクスタンドを挟んで、相方と同時におじぎをして顔を上げた。たくさんの照明が僕らの顔を照らすけど、薄暗い客席は割とよう見える。
今日もオカンはいつもの席でそれが生業かと思うような拍手で、僕らをいつまでも讃える。
袖にはける間も、若い女の子達が「すぐるー!」と僕を呼ぶ。ハバネロクラッツは、ツッコミのタッケーがおもろいキャラ担当で、ボケの僕がイケメン担当や。
「すぐるの言うてた所、ためたらホンマにウケたな。それでウケるて、分かっとったら何で初めからそうせんのや」
「試しや試し。ナニゴトも、実験が重要なのダヨ」
僕は「全て計算済みサ」と、偉そうにタッケーに言うけど。そこはこの間オカンが来た時にダメだしして、直した場所だ。
今日も舞台は好評だ。ハバネロクラッツのお得意の“ちょいエロネタ”が客席の女の子達のハートを掴む。
「……おう、おまいら、『ハバネロなんちゃら』言う奴らやろ」
いきなり、後ろからガッサガサのドスの効いた声が僕らを呼び、僕とタッケーはその声を聞いて直立不動のハリガネのような姿勢になった。
今度はその後スグに明るい高い声が飛んでくる。
「キミらのネタ下品やのに、よう女の子に受けとるのぅ」
それは今人気絶頂の大センパイ、エンキンコロンブスのお二人やった。
「おっ、おつかれさまです!!」
「おかげ様で、なんとかやらせて頂いてます!」
タッケーと2人、ガッチガチに緊張感をかもし出して返事をすると、声の高い方の遠野さんが「そんな硬くならんでええ」とタッケーの肩を叩いた。
エンキンコロンブスは正統派の漫才をする人達で、ガッサガサのドス声の近野さんがボケ、高い声の遠野さんがツッコミをする。
舞台ではボケの近野さんの方が人当たりの良い優しいキャラで、ツッコミの遠野さんの方がめっちゃキツいキャラでやってはるのに、袖に入ってしまうと2人のキャラは反転する。
ニコニコと優しい遠野さんと芸に厳しい近野さんは真逆な人間性やけど、たくさんの後輩芸人達に慕われている。
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