第五章

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 その時の私は、怖いもの知らずだった。山のどこに出ていってもちゃんと自分で帰ってこられるし、いくつもの秘密基地を持っていた。たぶん周囲の大人たちよりもずっと賢いんだって、自分でそう信じて疑わなかった。      でも、鳴海はそんな私のすべてを壊したのだ。      乱暴を働き、私の何もかもを奪った。      そして、私はこれまでの私ではいられなくなった。鳴海をはじめとする大人の男の人が怖くなり、一人で山に出掛けていくようなこともしなくなった。私がいま手にしている幼い頃の写真はそんな頃に撮られたものだったと思う。そして、元から私の近くにいたシャーロットはこの頃から私の分身になっていったのだった。その子はきっと、父が取り上げたものの代わりとして、母が私に買い与えたもののはずだった。つまり、私にとって二代目にあたる子なのだ。教育熱心な母は、私から前代の子が喪われたままなのは、後先何らかの悪影響が出るとでも思い込んだに違いない。      なんにせよ、シャーロットは私が知っているよりもずっと前から私のそばにいたのだ。鳴海から乱暴を受けて極端に内気になったせいで、一気に仲が深まった。だけど、私たちがやり取りしたことのすべては、私が元から知っていたことで、彼女に預けた私の記憶がほんの少しだけ解放されたってことに過ぎなかった。もちろん、後から作り替えられた記憶もあっただろう。どちらにせよ、思えば、その頃から私の症状は深刻化し、自分でも収拾できないまでになっていたはずだった。      でも、私はそんなことはまったく気づかずに、シャーロットと付き合いつづけてきた。シャーロットの正体を知ることは私自身が禁止していた。それが許されない関係だった。だからといって、私とシャーロットのあいだに溝ができるなんてことはなかった。付き合い自体はすごく自然体でありつづけた。      だから、そんなシャーロットから、秘密を打ち明けられたとき、純粋に私の中で衝撃が貫いた。そして、鳴海に対して激しい怒りを持ち、復讐を誓った。      実行日のことを、私は覚えている。      シャーロットを抱きかかえ、私がこれからやることが全部見えるよう、一階の戸棚の上に立て掛けたのだった。     「ちゃんと見ていてね。全部、あなたのためにやるんだから」      本当は私のためだった。    
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