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カヒムは目を覚ましました。
彼は見知らぬベッドの上にいました。
消毒用アルコールのツンとする匂いで、室内はいっぱいです。
天井は汚れのせいでくすんだ灰色でした。
キョロキョロと辺りを見回すと、隣にトールが寝ていました。
「トールさん、起きて下さい」
「ん?……カヒム君!!良かった、君はあれからずっと目を覚まさなくて」
トールはホッとします。
「すいません。それで、トールさん。ここは?」
「病院だ。私達の乗っていた飛行機が、上空から攻撃を受けた。そのままあわや……と言った所で、偶然タンカー船が通りかかったんだ。その後、救助してもらっていろいろあって、今病院にいるんだ」
事のあらましを聞き、カヒムは一安心しました。
一方で、トールの顔が引きつっていました。
カヒムは気になってトールに訊ねました。
「トールさん、どうしたんですか?」
トールが答えようとしました。
しかし、トールの答えは耳につんざいた轟音で、聞こえませんでした。
轟音をきっかけに、乾いた弾丸の発砲音が響いてきました。
しばらく音は止まりませんでした。
怖くなった2人は、ベッドで身を寄せ合うことにしました。
時おり、誰かをののしる声が響き渡りました。
次に静かになったのは、カヒムが目覚めてから半日過ぎた後でした。
タイミングを見計らって、トールはカヒムに言います。
「カヒム君、君に紹介しなくちゃならない人がいる。タンカー船の所有者だ」
「はい。僕もお礼を言いたくて仕方なかったんです」
トールはおほんと咳をします。
「君の気持ちはわかるよ……でもね、所有者のバレントは世界的に有名な武器商人なんだよ。今、私達がいる国は、2つの勢力に分かれて戦争をしている。彼は内戦中の双方の組織に、武器を売っているんだ。……人間を殺す、ロクでもない兵器を」
「そんな」カヒムは驚きます。
「しかも、どこからか聞きつけたのか、君の行っている事を知っていて……君と話しをする条件で私達の身の安全もろもろを保証しているんだ」
「そうだったんですか。わかりました、僕はバレントさんと会います」
こうして、紛争責任者のカヒムは武器商人バレントと会うことになりました。
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