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それから……3週間がたちました。
あれから、カヒムとバレントの娘トスカナは、トールと共にウルグアイのロモスへ戻ってきていました。
トスカナはカヒムの家に住むことになりました。
彼女の事情を聞き、カヒムの両親がそうしようと言ったからでした。
トスカナは静かな子です。
「私、いらない子だから」という言葉が、彼女の口ぐせでした。
いつもいつも、ガムをくちゃくちゃと噛んでいて、笑顔はありませんでした。
そんな彼女でしたが、カヒムの親やカヒムと暮らしていくうちに元気になってゆきました。
洗濯物を干したり。
食器を片付けたり。
お風呂場を掃除したり。
お手伝いのたびにカヒムの親からほめられて、とても嬉しそうにしていました。
3週間の間に、トスカナは明るくなり、よく言っていた口ぐせも少なくなりました。
「私、いらない子だから」と言わなくなりました。
同時にカヒムにも言っていた話しもあまりしなくなりました。
彼女は事あるごとに彼に話しました。
トスカナが転んだ時。
トスカナがミスをした時。
トスカナが別れた父親の話しをする時。
いつも、この世の決まり事のように話すのです。
いつも、とても悲しい顔をしていました。
「カヒム、私が世界で1番いらないものなんだよね?」
カヒムは決まって黙りました。
どう答えていいかわかりませんでした。
バレントと世界で1番いらない紛争地帯の責任者の地位と、トスカナを交換しました。
ですが、カヒムやカヒムの親にとって、トスカナは違ったのです。
トスカナはもはや家族でした。
彼らにとって、家族はとても大切なものでした。
カヒムは困り果ててしまいました。
◇◇◇
カヒムはモヤモヤしたまま、ある日草っ原で仰向きに寝っ転がりました。
空はお星様でキラキラと優しく輝いています。
カヒムの隣に、トスカナがやってきました。
トスカナは手に何か握っています。彼女は言いました。
「ねぇ、カヒム。世界で1番いらないものってなんだと思う?」
カヒムはまた黙ります。
「それはね……これよ!カヒム、あなたにあげるわ」
カヒムは驚いたまま、トスカナから何かを受け取りました。
それは……
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