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またカヒムは1人になりました。
さっきのビジネスマンと、会社をクビになったジェリコのことを思い出します。
一方は仕事が大好き、もう一方は仕事が大嫌い。
この違いがカヒムには不思議に思えました。
駅から出ます。
カヒムはなんとなく下見のつもりで、ディナー券の店までやってきました。
四角い窓枠を金で縁取った、豪華な装飾店の前には、おばあさんがじっと店の扉を見つめていました。
身なりがボロボロなおばあさんを哀れに思い、彼は話しかけました。
「おばあさん、どうしたの?」
「坊や、私に言ってるのかい?私はね、このレストランに入りたいんだ。
私は、定年までずっとここの清掃員をしてたんだけど……最後の最後までお客として入ってなくてね。
お医者様からもう長くないと言われて、思い残すことのないようにってやってきたの。
でも、全財産入った財布を盗まれてしまって……手元に現金がないんだよ。はぁー、嫌だねぇ」
かわいそうに思ったカヒムは、ディナー券をおばあさんに渡します。
おばあさんは大変びっくりしていました。彼女は涙ぐんでいます。
そんなおばあさんの前に、立派な服装のヒゲを生やしたコックが現れます。コックはおばあさんの姿をあらためると、泣きながら彼女に駆け寄ってきました。
「あ!あなたは、エヴァさん。僕です、元見習いコックのピエトロです。あなたに昔返しきれない恩があるんです。
……仕事がきつくて死のうとした時に、助けてくれた・励ましてくれた優しさ、今でも思い出します。
あなたのおかげで、僕は死なず今や南米一の料理人になりました。さあ、入ってください」
元清掃員と元見習いコックはにこやかに店の中に入っていこうとしました。
カヒムはおばあさんに言います。
「おばあさん良かったね。でも、ディナー券は返さなくてもいいよ……今度はコックさんと一緒に使ったらいいんじゃないかな」
「ええ……そうするわ」
「それでね、おばあさん。僕今世界で一番いらないものが欲しいんだけど、いらない物持ってないかな」
「いらない物……あ、1つあるわ」
「何かな?」
「家よ」
カヒムはいきなり家の持ち主になってしまいました。
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