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さて、カヒムは家の主人になってしまいました。権利書ももらいました。
彼が譲り受けた家は昔一家心中があった曰く付きの家でした。おばあさんもどうしようかと処分に困っていたものでした。
カヒムは今、全身熊の毛皮を着込んだ変わり者と一緒で、幽霊屋敷の前に来ていました。
草も生えていない、土くれだけの殺風景な平地。
日が差していない、墓場の匂いがします。
強風で家中が軋(きし)む音が聞こえるほど、木造二階建ての屋敷は朽ちていました。
外装の白ペンキは剥がれ落ち、老朽化したむき出しの木材は不気味さを引き立たせます。
カヒムと共にいる、偏屈なじいさんは言います。
「カヒムと言ったか。私はトールといいます。世間一般で言う、大金持ちです。貴方はこの屋敷を譲る気はないでしょうか……。ここは見る影もありませんが、私の生まれた家なのです。金ならいくらでも払わせてもらいます」
「僕、お金はいらないんだ。世界で一番いらないものなら欲しいんだけど」と、カヒムは答えます。
「なら、なおさらお金ですね」
「お金はとても便利だよ。どうしてお金がいらないの?」
「こんなものがあるから……いらないものが多くなってしまったんです……。私を養子に出さなくても……借金の為に自分以外の家族が心中しなくても良かったのに」辛そうな顔をしてトールは語り、口をつぐんでしまいました。
カヒムはよくわかりませんでしたが、トールじいさんはきっとお金のことで色々あったんだと考えました。
「ねぇ、トールさん。僕、お金以外で世界で一番いらないものを欲しいんだ。僕はそれと屋敷を交換したい」
トールは呆気にとられつつ、憑きものが落ちたように表情が柔らかになりました。
「わかりました。私の中でいまわしいと思うものと交換します」
「トールさん、ありがとう。それでどんなものを?」カヒムはドキドキしています。どんなものがいらないんだろうという、興味でいっぱいでした。
トールは何のこともないように淡々と言いました。
「私のいらないもの……それは、南方にある私の所有する島です」
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