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私は冷めた焼き肉を持ってきていた。マイバッグに入っていたもので、調理品の中ではとても簡単に作れる。食材自体はバザーに溢れているので値段が安く、コストパフォーマンスに優れている。昨夜のバザーで5zelほどで投げ売りされていたのを覚えている。
「俺、まだ朝飯すら食ってないんだけど」
「じゃあ、ウィルバーくんにはこれ」
「なんだ、これ」
エリシアは懐から袋を取り出し、ウィルバーの手のひらにポンと乗せた。ウィルバーは手の上でプルプルと動くものに一抹の不安を覚えながらそっと袋を縛る紐をほどいた。
「ゼラチンだけじゃないか!」
「お腹膨れるじゃない」
「膨れねーよ」
「流石に戦闘前に砂糖持ってこないでしょ」
「うぐぐ」
ウィルバーは不満に顔を歪めながら仕方なくゼラチンを口に含んでみる。
「味がない」
「ええ!? ホントに食べた」
「食べろというから」
「はぁ? 渡しただけじゃん。なに勘違いしてるの?」
「なっ! 俺をハメたな!」
「そんな初歩的なトリックに引っ掛かるほうが悪いんだー」
と、二人は大いに盛り上がっているようだが、そんなことはお構いなしにクラーケンが触手をうねらせながら姿を現した。そろそろ、戦闘開始の合図が響くだろう。
「パーティ名、ウィルバーと愉快な仲間たち、へ告ぐ。訓練施設レベル5の試練がいよいよ始まるが、準備はいいか?」
全身鎧を身に付けた屈強な男が二人の会話に割って入り、戦闘する意志を確認する。パーティリーダーはエリシアで、男に「いつでもオーケー」と答えた。すると、その会話を皮切りに鎧の男が私達から離れて野太い声で大きく「始め!」と号令を発した。
「おい! 作戦とかどうするんだ!」
ウィルバーが剣を構えながらもっともな意見を言った。さっきまで寝ていた割には中々冴えてるな。だが、エリシアは澄ました顔でとんでもないことを口にした。
「テキトーで」
「適当すぎるだろ!」
「いけるいける。フィーリング重視よ」
「マジかよ」
そのとき、水面が大きく波打ち、クラーケンの触椀が私達に向かって振り下ろされた。しなる触椀は太く長く、少し下がった程度では到底避けきれない。
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