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「止まってみえるぜ」
ウィルバーが剣を引き抜き、素早く上方を凪ぎ払う。
触椀が鮮やかに切断され、真っ白な断面を見せて地面を叩いた。切断された触椀は私達が立ち並ぶ脇に転がり、生々しい吸盤を見せつけた。
「エリシア、今のは挨拶代わりだ。タコの猛毒ブレスに気をつけ……おぷっ」
ウィルバーの嗚咽が聞こえたかと思うと、視界一面は既に赤黒い霧で覆われていた。周囲を目配せしたが逃げるスペースは残されてなく、唯一空いている空洞の上層もカイン装備でないために飛び上がることは不可能だった。
「きゃっ、なにこれ」
エリシアの悲鳴から彼女が初クラーケン戦だということが分かった。おそらく、飛散解毒薬が必要だなんて知らないだろう。
霧が徐々に晴れると、前方でウィルバーがクラーケンの触椀攻撃を捌いている姿があった。
虫の甲殻類を思わせる全身鎧はちょっとやそっとの攻撃など受け付けない硬質さがあったが、同時に非常に目立っていた。
だが、その姿を利用させてもらおう。
私は息を殺し、意識を両脚と両腕に集中させる。そして音もなく、湖の外周を駆けてクラーケンの背後へ回る。
二つある目玉の一つが私の動きを察知してギョロリと睨むが、雄叫びを発しながら剣を振り回すウィルバーに気を取られて元の位置へ戻った。
狙うはクラーケンの頭部。できれば目玉だ。
よく勘違いされるが、タコの丸い部分は頭のように見えるが実は胴体だ。目玉や口が付いている触椀に近い部分が頭部なため、勘違いして丸い部分を斬っても突いてもさほどダメージは与えられない。
つまり、細い頭部を突くことになるが二つの目玉は丁度真横に付いているため、死角を突くことは非常に難しい。
だが、ウィルバーに気を取られているいま、絶好のチャンスが到来している。
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