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湖岸を疾走し、クラーケンの腕の根元に着地できるように飛び上がる。脚力が強化されるスキルのお陰で普段より速く高く跳べる。走り幅跳びの要領で両足をクラーケンの体表に下ろしつつ、足を滑らさないように槍を刺した。
間近に迫った大きな目玉が瞬時に移動して私を睨み付ける。
だが、遅い。最早ハルバードは眼窩に迫っている。
槍の穂先がするりと目玉を貫き、赤黒い液体が噴出する。この液体は体液であり、毒性はない。と、分かっているが返り血のように全身に降りかかると気持ちが悪い。帰ったら洗濯しなければいけない。
その間、ウィルバーはクラーケンの触椀を二本斬り落とし、残る触椀は五本となった。
槍を素早く引き抜くと目玉から体液がどろりと流れだした。
視界が狭まるという大ダメージを受けたクラーケンは湖の水面で暴れながらも、残った触椀を器用に動かし、湖岸に落ちている剣を摘まんだ。
おもむろに振り回される触椀。
単なる打撃ならこちらの受けるダメージは少ないが、剣となると話は違う。
しかし、身構えた割にその攻撃は一向に来ない。
「ちょ、え、ウソ、なんで」
後方にいたエリシアが悲鳴をあげた。そちらを伺うと制服の裾が切り裂かれ、肌着が露出した彼女の姿があった
どうやら無傷らしい。しかし、僅かでもずれていたら致命傷だ。無防備に近い薄い布では敵の攻撃は全く防げないだろう。
「大丈夫か?」
エリシアの身を案じたウィルバーが振り向こうとしたそのとき、横から凪ぎ払われた触椀に彼は吹っ飛ばされた。幸いダメージは少ないようだが衝撃で壁まで打ち付けられ、壁が居なくなってしまった。このままではエリシアが危険だ。
私はすぐに湖岸へ戻り、両脚に意識を集中させながら駆け足で彼女の前に出た。
そこへ追い打ちをかけるようにクラーケンの触椀が何度も襲い掛かる。
盾や重鎧を持ち合わせていない私に防ぐ手段はなく、触椀の連撃を素直に受けるしかなかった。
「悪い、油断した」
戦闘に復帰したウィルバーが素早く触椀を斬り裂き、私の前に立ちはだかる。彼のその背は矢張り壁として頼り甲斐があるようだ。
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