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残る触椀は四本。
クラーケンも馬鹿ではない。ただ斬られるわけにはいかないと悟ったのか、湖岸に這い上がってその姿で圧倒し始めた。
全身を陸に上げたのは好都合だ。足場がしっかりした地面なのはこちらにとって戦いやすい。
しかし、猛毒が体を侵し始め、体が徐々に不自由になっている。あと数分もすれば立ち上がれなくなる。
「うおおお!」
ウィルバーは迫るクラーケンに走り寄りながら剣を振り上げた。私も彼に倣って槍を何度も頭部に突き刺す。もちろん、頭部にある脳を狙ってのことだが当たっている気がしない。
それでもクラーケンの触椀の動きは衰えない。その本体を徐々に私達に近付け、胴から見える漏斗のような器官を私達に向け始めた。
「まずい! インクブレスだ!」
「させない! バーストサイン!」
私の叫びと同時にエリシアがルビースタッフを掲げて炎属性の術の名を告げると、クラーケンの体に紅い鎖のような模様が張りついた。しかし、その術は何らかの方法でダメージを与えなければ発動しない。
クラーケンの漏斗の口が大きく広がる。インクブレスが放たれるのも時間の問題だ。
私とウィルバーはなんとか攻撃しようと近付くが猛毒が全身に駆け巡り、思うように動かない。これは万事休すか。
「待たせてごめんね。いっけぇぇぇ! レヴァンティン!」
ルビースタッフから発せられた紅い輝きがエリシアの体を覆い、彼女が告げた術が杖の先から放たれる。
剣を模した紅い刃が私とウィルバーの間を通り過ぎ、クラーケンに刺さると同時に燃え上がらせる。
クラーケンは突然発火した現象に体をくねらせながら湖へ後退しようとする。
「行かせない!」
つい先刻打ち込んだ紅い模様が光輝く。
瞬間、クラーケンの内側から弾けるように何本もの火柱が上がり、全身を熱気でうち焦がす。
クラーケンは暫くのたうち回っていたが、やがて腕を巻き込んで動きを止めた。
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