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朧気な記憶を頼りにして、明かり一つない路地裏から表通りへと這い出した。這い出したというのは語弊があるが、地に足が付いていないふらふらした足取りだから、こう表現するしかない。
一応、自分の体を見下ろした。衣服は身に付けている。靴も履いている。メガネも掛けている。
ん? メガネ? 目が悪かったか?
あ、これは、視力を補強するために掛けてるものじゃないんだった。確か、シグマメガネだ。
そう言えば、ハートグラシズやサングラシズなども持っていたような気がする。だが、手持ちにないな。
となると、何処かに保管しているのだろうか。
表通りに軒並み連なっている家々を見て回る。見上げると、アーレイベルグ北区と書かれた看板が風に吹かれて左右に揺れていた。
北区か。あまり行ったことのない場所だな。バザーが行われていた中心部まで行けば、見覚えのある建物が見つかるかもしれない。
往来する人の中に、白と水色を基調とした制服を着込んだ若者の割合が増えてきたように思う。
そう言えばと、自分の衣服を再確認すると、革のジャケットに革のズボン。あちこち擦りきれていてみすぼらしい。とは言うものの、着替えを持っていないし、着替えを買うお金も持っていない。これはもう潔く荷物の在処までこのまま突っ切るしかあるまい。
「よう。こんな夜更けに散歩か?」
ある少年が私の姿を見るや否や砕けた口調で話し掛けてきた。
短く刈り上げた金髪で、長身ではないが体つきはがっしりしており、いつでも戦闘できそうな軽鎧と学生服を合わせ着している。確か名前は……。
「ウィルバー、久しぶりだな」
すると、彼は目を見開いて私の姿をマジマジと見た。
「何言ってんだよ。昨日会ったばかりじゃないか」
「ん? そうだったか?」
「おいおい、しっかりしてくれよ。頭でもぶつけたのか?」
「あー、実はそうなんだ。そのせいで家がどこか分からなくてさ」
「マジかよ。じゃあ、俺が案内してやるよ」
「すまんなぁ」
「いいってことよ」
ウィルバーは俺に付いてこいと言わんばかりに笑顔を振り撒いてみせ、私が向かっていた方角へ歩き始めた。
確か、家は……家?
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