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ウィルバーは汗を拭い、ふぅと一息ついた。肩で息をして汗をダラダラとかく姿は青春の一頁だろうか。
今回、一番働いているのはもちろんウィルバーで、盾になったり攻撃の要になったりと忙しい。実はロイも前衛ではあるが、戦闘経験が乏しいため、積極的に前に行かず、ウィルバーのこぼれ球を拾っている感じだ。とはいえ、後衛が無傷なのでかなり役立っている。
エリシアは連続で高等な術を行使したため、廊下の壁に寄りかかりながらボーッとしている。やや疲労しているようだ。
そのとき、廊下の途中にある木製の扉が内側から勢いよく開いた。宝箱を模した魔導体である、リビングチェストがガタガタと音を立てながらこちらに向かってくる。物であるにも関わらず、蓋を開閉しながら飛び跳ねる様子は生きているようで、それゆえに魔導体と呼ばれる。
「マジかよ。休憩時間ないのかよ」
ウィルバーとロイが各々の武器を構え、飛び掛かるリビングチェストの筐体目掛けて力の限り斬りつける。
連続で木箱が凹むような音が聞こえたが、リビングチェストは勢いを止めずにロイの腕に噛みついた。
「イデー、イデッ、イテッ。腕が、腕が千切れる!」
ロイはリビングチェストを何度も壁に打ち付け、なんとか離そうと必死だ。ウィルバーも両手でリビングチェストの蓋をこじ開けようと頑張っている。
「外れた!」
蓋が開いた瞬間、ロイは急いで腕を引き抜き、力任せに斧を振り上げようとした。
「ちょっと待て! 俺ごとぶったぎる気か!」
ウィルバーは顔を真っ赤にしながら猛然と噛みつこうとするリビングチェストの蓋を押さえている。確かにこのままぶったぎるとウィルバーの腕が飛びかねん。
「レヴァンティン!」
エリシアが体を震わせながら術を行使する。杖の先から伸びる紅く光る刃はリビングチェストを燃え上がらせ、ついでにウィルバーにも着火する。
「うわちゃ、あづぅぅ!」
「それならフロストバイトだ」
「ちょ、つめたぁぁ! って俺を巻き込むんじゃねーよ」
愚痴るウィルバーは放置し、リビングチェストに氷の刃を突き立てる。いちいち詠唱しないが、コキュートスである。
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