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氷の刃がリビングチェストの箱の中に突き刺さり、その場に縫い止めたかのように見えた。しかし、リビングチェストの上蓋が閉まると氷の刃はガキンと音を立てて折れてしまった。魔力が少ないと耐久性のない氷しか具現化できないらしい。
だが、ほんの数秒足止めしたお陰で、ウィルバーもロイも体勢を立て直すことができ、二人はほぼ同時に各々の得意武器で斬りつけた。
バキバキと木製の箱から悲鳴が上がる。リビングチェストから上蓋が外れて、千切れた部分的からささくれが飛び出す。こうなるとリビングチェストはもう噛みつくことができない。つまり、あとは壊されるだけである。
「はぁぁ、襲って来すぎだろーが。俺たちゃ、ズルなんてしてないっつーのに」
ウィルバーが悪態をついて床に腰を下ろした。酸素が足りないようで何度も深呼吸をしては、汗だくの顔を拭っている。
「ズル? どういうこと?」
エリシアもこれ以上は立っているのも辛いようで床に崩れるように座った。そして、ウィルバーの次の言葉を待った。
「ああ、最近豪奢の鍵を試練の一環で手に入れずに、バザーで購入する生徒が増えているんだってさ。そこで教官達が対策を講じて、豪奢の鍵を最初から持ってるグループが来たときは敵が一斉に襲いかかるようにしたんだって」
「へ、へえー、そ、そうなんだ」
「おい、どこを見ている。あ、おまえ、もしかして」
「えへへ」
エリシアはペロリと舌を出すと、バッグの中から正に豪華絢爛と呼ばれるような鍵を取り出した。この鍵があれぱ試練の間まで一直線である。
「おい! ズルしてるじゃないか! 通りで倒しても倒しても敵が出てくると思ったよ。それなら最初から言ってくれよ……」
ウィルバーは消え入りそうな声で情けない声を出すと、深い深い深いため息を吐いた。まさに空気が抜けた風船だ。
「ごめんね、楽しようと思ったんだけど」
「逆に苦労してるよ……」
「ちなみにネコさんに買ってもらったの。他の部屋スルーできるからって」
「おぃぃ! ネコの仕業か!」
「バレたか」
「ったくよー。今度からは先に言ってくれよ」
「ふむ、ウィルバーはサプライズが苦手、と。メモメモ」
「何をメモしている」
「まぁまぁ」
「まぁ、じゃねーよ! 責任取ってネコが前衛行ってくれよ。槍でも前衛に立てるだろ?」
「確かに、じゃあウィルバーは後ろで指でもしゃぶってるといいよ」
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