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勝利を喜んでいるのも束の間、曲がり角から魔導体や蜘蛛、眠たそうな表情の羊などが次々と姿を現す。
多勢に無勢か、そう思ったとき、ロイが私の隣を通り抜け、渾身の力で斧を振り払った。
「うおお!」
ロイはさっきの戦闘で自信をつけたようだ。後衛に甘んじるのを辞めて、自ら前線へ飛び込んだのだ。
遠心力も相まって斧は蜘蛛を潰し、羊もバッサリと切り裂く。しかし、空中を浮遊する黒い剣には掠りもせず、斧の刃が壁に刺さった。
「おお? お、あ、抜けねぇ」
その隙に黒い剣がロイの腕を切り裂かんと振り下ろす。だが、私が寸でのところで槍を突きだしたお陰で刃は槍の刀身で止まる。
私は槍を素早く振り上げて黒い剣を壁に叩きつけると、槍を直ぐに手元に引き戻し、黒い剣の鍔本を狙って突き刺した。
金属同士がぶつかりあう。鍔と刃の間に槍の穂先が突き刺さり、弱いほうが崩れてゆく。無論、崩れたのは黒い剣だ。
「おい、一撃かよ。どんな手品使ったんだ?」
ウィルバーは目を丸くさせて私と槍を交互に見る。
「課金スキルだ」
「は?」
「リーサルスパイクっていう技法だよ」
「聞いたことないんだが」
「まぁ、倒したんだからいいじゃないか」
「そんなに強いならずっと前衛やっててくれよ」
「え? もしかして、ニートに鞍替えか? そんなんじゃメリルを養えないぞ?」
「なっ! まて、誰がニートだって? 俺が常に前線に出て体で稼いでやるさ」
「まあ、誰も結婚できるなんて言ってないが。するつもりなのかな? ウィルバーくん?」
そこで私はにやりと笑う。
「ちょ、お前ぇぇ!」
頭から四肢の端々まで赤くなったウィルバーは剣を構えて横合いから出てきた浮遊する黒い鎧を一刀両断にした。なんという馬鹿力か。
「俺の斧がかすんで見える」
「そんなことはない。ロイのお蔭で助かってるよ」
フォローを入れるのも忘れない。すると、機嫌を良くしたロイはその図体とは思えない素早さでウィルバーの前に躍り出て彼よりも先に敵を屠った。
「みんな、すごい! これじゃあ、わたし、なんにもしなくていいね。やったー」
結果、エリシアがニートになった。とはいえ、普段の言動からすれば、彼女が最もふさわしいが。
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