訓練施設レベル6

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「エリシア! 今すぐこれを食べるんだ!」  私はマイバッグからパイを取り出し、ブーメランを投げるように彼女へ投擲した。  それをエリシアは手が汚れるのも厭わず、両手で挟み込むように受け取り、すぐさま噛り付いた。  それは魔女林檎のパイ。  メリーアップルがバザーに出回っているときに強化の紙片を売りまくったお金で買い占め、当然合成に使い、魔女林檎のパイを作った。ただし、成功したのはたったの二個だ。 「なにこれ! 魔力が漲る!」  呑み込んだ拍子にエリシアの体で異変が起きる。全身からエメラルドグリーンの色をした粒子が現われ、彼女の持つルビースタッフへ集積される。魔力をふんだんに帯びた杖の宝石は明るい色を発し、エリシアに語りかけるように煌めく。 「……うん、わかった。集束術式ね」  ん? 集束術式? 「いっけぇぇぇ! フレイムインフェルノォォォ!」  その術の名を叫んだ途端、エリシアの体は炎の壁に阻まれ、一切見えなくなった。確か、フレイムインフェルノは……。  押し寄せる炎がこの場に立っている全員に襲いかかる。敵味方関係なく。  そうだ、地上に立つ者すべてに、術者も例外ではない。それをエリシアは分かっていない。 「おい! 味方を巻き添えにする気か!」  ゲイリーの叫びが迫りくる炎の業火の中で聞こえたが、すぐに掻き消された。もはや、逃げる術はどこにもなく、ウィルバーやロイは床に伏せて両腕で顔を覆う。  炎は試練の間の端から端まで届き、耐え難い熱さに見舞われた。  一人、また一人と床に倒れ、そして、エリシアも床に体を預けるように倒れた。  術者が倒れたことで炎は鎮火した。だが、試練の間には立つ者がおらず、ひっそりしていた。とはいえ、死人が出たわけではない。瀕死の重傷を負っただけだ。  私を除いて。  
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