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走って逃げても追いつかれて食われる。
武器は石しかない。
三人で立ち向かっても勝てるかどうかおぼつかない。
絶体絶命。健太は死を覚悟した。
この世とあの世の境にある空間世界にいるにも関わらず、健太の思う死は、この世での死の感覚だった。
10メートル程に近付いて来た黒豹は、そこで立ち止まり、身構える健太達に悠然として対峙した。
だが、黒豹からは殺気や攻撃的なイメージは伝わって来ない。
ーお前達を攻撃しない、安心しろー
黒豹からの言葉が来た。
三人は同時に受信したと確信していた。
そう思える程、黒豹が送るイメージのパワーが強かった。
音量が大きいと言うより、重低音に身体が共鳴して振動するような感覚だった。
浮かぶ言葉は、自分の脳がイメージを変換して言葉にする前に、イメージが勝手に変換されて言葉が表示された、自動翻訳機を見ているようだった。
健太は二人を同時に見た。
ー来たよなー
二人は頷いた。
ー動物が話す、信じられない、この世界、不思議が当たり前、何でも信じるよ、知能があって、猛獣で、この脳力のパワー、かなう訳がない、殺されて食われる、もうどうとでもなれだー
健太はやけっぱちになってその場に座り込んだ。
他の二人も同調して座り込んだ。
健太達は思いもしない、黒豹からの強いイメージ波動を受けた。
その、突然耳元で大声で怒鳴られたような感覚が、驚きと混乱を生み、その言葉を見ただけで、意味まで理解していなかった。
ー俺の言葉が伝わらなかったか、お前達を殺しもしなければ、食いもしないー
黒豹に健太達の動揺は察知され、次の言葉は、パワーは変わらなかったが、物柔らかな優しいイメージに包まれていた。
圧倒的な力の差を実感し、黒豹の醸し出す、単なる動物とは思えない神秘的な雰囲気が健太に畏怖心を生じさせ、次に感じた黒豹の優しさのイメージから、畏怖は畏敬へと変わって行った。
健太は畏敬の眼差しで豹を見た。
ーあなたは私を見ていないのに、私の言葉が分かるのですか?ー
ー言葉にしなくても、お前の思うことはすべて分かる、私の力はお前と比較にならない程強い、お前の世界で言うと超高性能の通信機と安物の通信機の差だ、パワーも違えば感度の違うー
ー私の世界が分かるのですか?ー
ー私は何でも分かるー
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