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大晦日は佐々木家で過ごした。玄関の掃除,家庭用門松としめ縄の飾り付け,夕食の準備,年越しそばの準備…早い時間から飲み初めて,食べて,話して,テレビを見て,そばを食べて…そうしてテレビと近くの寺から,鐘をつく音が聞こえてきて,全員正座した。
「明けましておめでとう」
正彦が言うと,他の家族も口々に,明けましておめでとう,と言う。そして正彦がブライスの方を向いた。
「ブライス,新しい年が君に幸せと発展をもたらすことを祈っているよ」
「アリガトウゴザイマス。ミナサンモ ヨイトシヲ ムカエマスヨウニ」
翌朝元旦は,近くの神社に家族総出でお参りに出かけた。ブライスは悦子から作法を習ってお参りをした。佐々木家の5人が並んでお参りする後ろ姿を,ブライスは尊い場面を見るかのように見つめた。
3日の午後にふたりは由香と共に仙台駅の新幹線のホームにいた。優志の家族と,早々と実家から戻ってきた遼が見送りに来ていた。
「ブライス,あなたは本当に素敵な青年で,楽しかったわ。いつまでも優志の友だちでいてね。またいつでも来てね。待っているわ…」
悦子は涙を流した。正彦も孝志も目尻に涙を貯めて挨拶を交わした。
「またな,ブライス。その…がんばってっ」
遼の言葉はそっけなかったが,想いが溢れていた。
新幹線の窓から小さくなっていく彼らに手を振りながら,ブライスの目からも涙が溢れた。
東京では浅草に宿を取り,夕方スカイツリーに登った。その夜は由香と、婚約者と言っていいほどの付き合いをしている彼氏と食事をした。
翌日は,楽だからと由香が予約していたはとバス1日ツアーで東京を満喫した。
ブライスが日本を発つ前日の夜を迎えた。ライトアップされたスカイツリーが見える窓辺で一人掛けの椅子に座って,スマートフォンで撮った画像を眺めていた。
よろず屋宿泊からかなりたくさんの画像を撮り貯めていた。その中でも何度も見てしまうのは,優志が家族と映っている画像だ。
普通の家族だ。男親と姉弟が,ブライスにはない存在が揃ったその家族の中に,温かな愛情に包まれ安心しきった表情の優志がいる。そうした画像を見ていると,ブライスは切ない気持ちになった。
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